愛国教育がもたらした中国の若者たちの先入観
2020.05.13
「蟻族」の現象は北京だけに限った話ではなく、中国全土に広がっているようです。首都・北京は大卒者向けの求人が比較的充実しているはずですから、むしろ地方のほうが実態はさらに深刻なのではないでしょうか。「いい仕事に就きたい」と思っても、なかなか望みどおりの職に就けないのは大学生の数が増えすぎたことが大きな要因です。

中国の大学生の数は2009年までの8年間で実にに5倍以上にも増えているのです。2011年の大卒予定者は約660万人と、2年前に比べて約50万人も増加しており、3月時点の就職内定率は7割前後にしか達していません。残る3割は中国の大学卒業時期にあたる6月中旬までに就職が決まらないと「蟻族」への道を辿ってしまう可能性があります。

中国のマスコミは「名門北京大学の修士課程を修了したのに就職が決まらず故郷に戻って塗装エになった女性」や「大学在学中から焼き芋屋として起業した女性」のエピソードなど大学生の就職難の実情を頻繁に取り上げています。

高学歴人材を上手に活用できないことは中国の今後の経済発展にとっても大きな問題です。若者の世の中に対する怒りが募って社会不安に結び付くのも中国政府としては避けたいところです。

そのため温家宝首相は2011年3月に開かれた全人代で「大卒者の雇用創出を最優先する」とアピールしました。具体的には雇用創出のために423億元(約5,500億円)の予算を投じ、技能訓練などの就職支援を強化する考えです。

しかし、大学生の中でも共産党幹部や国有企業関係者の子弟はいい会社に就職しているのに、低所得者や農民の子どもたちは、どんなにいい大学を出ても職に恵まれないという、あからさまな差別も存在します。そうした矛盾を根本的に正さない限り「蟻族」問題は収まるどころか、ますます深刻化する可能性すらあります。

数年前、中国の20代の若者たち数人と上海のとあるレストランで食事をしたときのことです。1人だけ数日前に地方からやって来たばかりの少女がいました。日本人に会うのは生まれて初めてだそうで「イメージしていたのと全然違う」と驚いていました。彼女がイメージする日本人とは背が低く、丸坊主頭で、カーキ色の軍服をまとった姿だというのです。

つまり大日本帝国陸軍の兵隊の格好そのままです。さすがに彼女が思い描いたような日本人像は現代の中国の若者の間では、あまり一般的ではありません。中国では既に1990年代から「東京ラブストーリー」(中国語題名「東京愛情故事」)、「ひとつ屋根の下」(中国語題名「同一屋櫓下」)といった日本のトレンディドラマや映画の海賊版ソフトが普及しており、最近では日本で放映されたばかりのドラマがその日の深夜には中国の無料動画サイトに違法アップロードされてしまいます。多くの若者たちは、そうしたコンテンツを通じて、いまの日本人のファッションやスタイルをよく知っています。

とはいえ、インターネットも通じていない地方の片田舎で生まれ育った若者の中には日本のコンテンツに一度も触れたことのない人もいます。おそらく彼女は中国のテレビで毎日のように放映されている「抗日片」(日中戦争を題材にした戦争ドラマや戦争映画)を幼いころから繰り返し見続けた揚げ句「日本人」=「帝国軍人」というイメージを頭に焼き付けてしまったのでしょう。

学校では愛国教育を叩き込まれ、テレビのスイッチを入れれば残虐な日本兵が中国人をいたぶる姿が目に飛び込んでくるのですから、中国の多くの若者たちの心に強烈な反日感情が宿るのも無理のない話です。既に何度も述べているように中国の愛国教育は1989年の「天安門事件」以来、失われつつあった中国共産党の求心力を取り戻すために日中戦争を勝ち抜き、中華民族を守り抜いた共産党の功績をアピールする目的で行われたものです。

中国の若者たちは愛国教育を通じて中国共産党こそが中華民族の利益を守る絶対的な「正義」であり、日本はその正義と対峙する「諸悪の根源」であると徹底的に教え込まれました。学校教育のみならず新聞や雑誌、テレビ、ラジオ、映画などあらゆる中国のメディアにおいて反日を是とするコンテンツがいまでも溢れ返っています。

「愛国教育」を「反日教育」と言い換えても全く違和感はありません。共産党の正義を際立たせるため、都合のいいように歴史を糧造して国民に教え込んでいることも問題です。その実情については、歴史作家の井沢元彦氏と、舌鋒鋭い中国批判で知られる中国生まれの作家、金文学氏がまとめた「逆検定中国歴史教科書-中国人に教えてあげたい本当の中国史」(祥伝社黄金文庫)などに詳しく書かれていますので興味のある方は読んでみてください。

2020.05.13 16:51 | 固定リンク | 日記

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